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美しい森のつくり方をドイツ林業からどう学ぶか

「美しい森」について、速水勉氏は「孫子のために山の手入れをして来たら、美しい森だ!と世間は評価してくれた」と述べた(速水2007)。彼の信条は「木一代、人三代」であり、山造りを真に言い表している。

この速水林業は我が国で最初に森林認証1)を獲得し、三重県の尾鷲林業地帯を代表する。速水林業の主体はヒノキの人工林であり、学生実習の一環で現当主の速水亨氏に案内されるまで、ヒノキの樹形は樹冠上部で光が吸収される広葉型2)なので、暗い林をイメージしていた。 しかし、案内されたヒノキ林(写真1)を前に、学生諸氏から感嘆の声があがった。明るい林床、豊かな植生、そして大きく枝を張った樹冠。これらは、本稿で紹介する「森林美学」を創設したドイツの地主貴族のH.フォン・ザーリッシュ(以下ザーリッシュ)の提唱した強度間伐の一種、ポステル間伐3)を思い起こさせる施業法であった。

本稿では「美しい森」とは、機能美を備えた森林として考察し、ドイツ林学の根底にある森林管理の姿勢から得るべき点を紹介したい。

森林美学:ドイツ林学の導入

明治期の日本の森林管理の体系は、その大部分が“ドイツ林学”の影響を受けたものであった(史的背景は、芝2019に詳しい)。ここでいうドイツ林学とは、明治初頭に「資源小国の日本へ、再生可能な資源である森林管理の体系を導入して欲しい」という青木周蔵や大久保利通らの命を受けてベルリン近くのエーベルスワルド高等山林学校に学び、東京山林学校を創設した松野礀はざまが導入した体系である。松野の門下には後述する、川瀬善太郎や本多静六がいて、「森林美学」の考えを紹介し、ドイツ留学中にザーリッシュの森林美学に触れ、その後「森林美学」を著わした新島善直らがいる。

一方、ターラント高等山林学校(現ドレスデン工科大学)の校長を務めた H. コッタ(以下コッタ)は、「森づくりは半ば科学、半ば芸術である」との森林観を唱えた。その背景には科学者・詩人であったJ.W.フォン・ゲーテの「自然は常に正しく、誤りはもっぱら私の側にある。自然に順応することができれば、事はすべて自ずからにして成る」との名言がある。コッタはこれに触発され、自然の摂理と調和した森林の管理・経営論を具体化した4)。

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