京都大学造園学研究室の教授を務めた中村一は、哲学者ヘーゲルが自然美を低級美と位置づけたことに対し、「自然美を初級美、そして芸術美を高級美とした上でランドスケープデザインを考えていく必要がある」、さらに「初級美とは、生き生きとしたミドリを身の回りに豊かに持つこと」とランドスケープ・デザインにおける自然美の重要性について講義した1)。中村が指摘するように、ランドスケープ・アーキテクトにとって、自然美の取り扱いは職能の根幹である。
園三は筆者と同様、造園業の子弟として生まれ、幼少期から植栽、剪定、作庭など、自然を扱う造園技術に親しんできた。その中で「生き生きとしたミドリを身の回りに豊かに」植栽するための感覚、つまり樹木の「表裏」、「立ち」、「気勢」さらには植栽配置の「美の三角形」などについて小中学時代に習得している。根巻や植栽については言うまでも無い。音楽家が幼少期からピアノを習うことで「絶対音感」を身につけるように、園三は造園家の絶対音感ともいえる「生き生きとしたミドリ感覚」を早くに体得した。園三は、この確固たる「自然美の造園」を土台に、エクボの言う自由な幾何学を重ね合わせる。つまり、樹木や石材など自然形態の中に「点・線・面」や「ヴォリューム」など抽象化された視覚情報を見出す。都市や建築のコンテクストも同様である。ここにデザイン対象に含まれる形態は全て抽象化され、相互に自由なコンポジションが展開される。
コンポジションとインプロヴィゼーション
ランドスケープ・デザインの初期段階はさまざまなコンテクストの読み込みの期間となる。クライアント、自然条件、周辺環境、多くの場合は建築設計図も重要なコンテクストとなる。読み取られた様々な事象が抽象化され、初期イメージが構成される。次いで、手描きエスキスを経て、手描き図面として結実する。このように園三は「手描き」手法の持つ身体感覚を重視する。ここまでが抽象化~コンポジション(構成)段階である。次に園三は苗畑や材料店を巡り、デザインイメージに相応しい樹木や石材などの表現素材をピンポイントで絞り込む。この素材探索が、設計時の抽象化~コンポジション・プロセスから、現実世界への非抽象化プロセスへの橋渡しとなる。つまりコンポジションから、施工によるインプロヴィゼーション(即興)への移行である。施工においては、状況に応じ柔軟なインプロヴィゼーションが求められる。人・素材・光と影・図と地など多様な関係性がスパークし、設計イメージをより高次なものへと昇華する一期一会の創造活動が展開される。これらコンポジションからインプロヴィゼーションへのスムーズな止揚が園三の持ち味である。
現代のファサード、デジタル・ランドスケープ
園三の創り出すランドスケープは多視点的であり、シークエンスでもある。園三は創作活動の初期からデジタルカメラを通して、庭園施工から竣工写真、さらに完成後のエイジング状況など、膨大な数のデジタル画像を自身で撮影し、リアルタイムにSNSなどを通じてネットワークにアップロードしてきた。これら園三が生み出す数々の美しい視覚イメージは、まさに彼の中に蓄積されてきた自然美が、芸術美へと昇華されたものである。我々はデジタルカメラのセンサーを通して見つめる園三の、網膜に展開するランドスケープを共有しているのである。世界に向かって公開されたデジタル・ランドスケープには、国内に止まらず諸外国からのレスポンスも多く、新たなプロジェクト展開の契機となる。芸術美と速度感を持つ、開かれたデジタルイメージの集合体。これこそが園三のランドスケープにおけるファサードである。