田代島の仁斗田や大泊の港を囲む斜面には、うっそうとした常緑広葉樹の森が繁っています。この木は種名をタブノキといい、マツに次いで潮風に強い木です。海岸で中でも土壌が発達したところで自然に生育します。タブノキの葉は厚く大きくなるので、潮風から港やそこから続く集落を守っています。「タブ」の意味・語源は明確ではありませんが、古代朝鮮語で丸木舟を表す「トンバイ」がタブに転訛したとする説があります。海岸近くに大木に生育し材が海水に強く船材とされたこともあったようです。また、タブノキの名は「霊(たま)が宿る木」を意味する「タマノキ」から転訛したという説もあります。筆者(広永)は、枝葉が多く勢いよく横に茂ることから、「多」「布」に関係している気がしています。なお、タブの漢字「椨」は「木」偏に旁(つくり)は都道府県の「府」です。
タブノキは、海岸側低地の自然林の主要な種類でありますが、関東などでは海岸側低地は市街地や農地がほとんどで、自然な林を大変少ないのが現状です。また、低地の公園では大型常緑高木の景観木としてはクスノキが使われることが多くタブノキが使われることは希です。そのため、普通は、この木を目にすることはめったにありません。名前も一般にはほど知られていません。しかし、横に張った枝群は均整美やリズム感があり、もっと景観木に使われてもいいように思えます。
タブノキは、岩手県中部を北限とする南方の種類ですが、宮城県の太平洋岸は冬季の季節風が弱いせいか大きく成長します。田代島には全域に(各地に)単木または森としてあり、島の集落や田畑や道、そして神社などを潮風から守ってきました。また、落ち葉は森の下に養分となり、海のプランクトンの養分となり、海産物の養分となります。さらに、2011年の巨大津波を浴びても大きく枯れることはありませんでした。
一方で、宮城県では、冬季の乾燥した寒風のせいか仙台平野にはほとんどなく、松島から石巻市街地の場所までは奥松島など一部を除いてほとんどないようです。
タブノキは、多くの人にとっては「見たことのない珍しい種類」ではないでしょうか。 ところで、2011年の津波 東北の津波被災地では、災害防備のためタブノキを中心として植樹がなされているところがあります。防災林として植えられたタブノキがどのような林になるのか、田代島では成長したタブノキ林を見ることができます。