地域の色、街の色を感じたことはあるだろうか。ランドスケープアーキテクトの人たちはプロジェクトの設計に おいて色を意識したこともあるだろう。その際、周辺の色との調和を考えていると推察するが、その色自体が 地域に根ざし引き継がれてきた色とは限らないことを知る必要がある。特に都市部においては引き継ぐべき色 を失ってしまっていることを吉田愼悟氏のインタビューから知ることができた。そして地域の色とは、地域産材 でつくられた建物、地域産の石が敷かれた道、積まれた塀などに由来することも。その土地の歴史や地域との 関係性などまで掘り下げて設計するランドスケープにおいては、地域の色にも目を向けて欲しい。地域の色は、 そこで人が暮らし育んできたものなのだから。
地域には地域の色がある
私は1974年に渡仏し、カラーデザイナーとして活躍し ていたジャン・フィリップ・ランクロ氏に師事しました。 その当時スーパーグラフィックが世界的に流行していま したが、ランクロさんはスーパーグラフィストとしても 注目を浴びていた人です。そんな彼はフランス中を巡る なかでそれぞれの地方にはそれぞれ個性的な色があるこ とに気づきます。ランクロさんはペイントメーカーの アートディレクターも務めていたため、地域ごとに住宅 の色を調査していましたが、私もその調査を手伝うなかで地域や街の景観が地域ごと、街ごとに個性的な色で構 成されていることを羨ましく思ったものです。
日本は、戦後の復興において街並みを整えるというこ とをさほど重要に考えてこなかったと思います。戦前の 日本らしい街並みの多くも復興の名の下にその姿を変え ていきました。ところがフランスで美しい街並みを見た 時に、歴史ある景観の中に身を置くと街並みに対する考 え方も違ってくるものだと感じましたし、私が生きてい る間はそれほど変わらない街並みがあっていいし、むし ろそのほうが健全ではないかと考えようになりました。
帰国後フランスでの体験を取り入れたカラリストとして仕事を始めましたが、当時の日本ではデザインは新し さにこそ価値観があると考える風潮があったため、地域 ごとに地域の色がありそれが地域の個性だということを なかなか理解してもらえない状況でした。ある地方の街 では、桜が有名だから街の色はサクラ色ですねと主張す るわけです。現在もそのようなことは多々ありますが、 地域の色とはそういうことではなくて、その地域の建築 とか景観は地域で産出されていた素材でつくられてお り、地場で採れる木や石などの色がその地域の景観や街 並みを構成する色となるわけです。それが青になったり 赤になったりということではなく、非常に近い範囲の中 に収まっているはずです。そういうことを無視して海の 近くだから青にしましたという商品色彩学的な色の決め 方をしてはいけないということを、いろいろな地域で指 摘してきました。