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バイリンガル革命: 教育の未来は2カ国語で
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Ebook285 pages1 hour

バイリンガル革命: 教育の未来は2カ国語で

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About this ebook

実用的かつ利用可能な「ハウツー」ガイドである本書は、立ち上げた保護者や教育者の目を通して語られる、公立学校におけるデュアルランゲージ教育プログラム誕生物語です。先駆的な母親、父親、教師、校長たちは、バイリンガル教育が子どもや学校、コミュニティ、さらには国をも前向きに変えることができるという信念を共有していました。


実用的かつ利用可能な「ハウツー」ガイドである本書は、立ち上げた保護者や教育者の目を通して語られる、公立学校におけるデュアルランゲージ教育プログラム誕生物語です。先駆

Language日本語
PublisherTBR Books
Release dateJul 14, 2020
ISBN9781636070599
バイリンガル革命: 教育の未来は2カ国語で
Author

Fabrice Jaumont

Fabrice Jaumont is the author of Unequal Partners: American Foundations and Higher Education Development in Africa (Palgrave-MacMillan, 2016); The Bilingual Revolution: The Future of Education is in Two Languages (TBR Books, 2017); La Révolution bilingue, le futur de l’éducation s’écrit en deux langues (TBR Books, 2017); and Partenaires inégaux. Fondations américaines et universités en Afrique (Editions de la Maison des sciences de l’homme, 2018)A native of France, Fabrice Jaumont moved to the United States in 1997. After serving as an education liaison for the French Consulate in Boston and then as assistant principal at the International School of Boston, he moved to New York in 2001. He is currently the Program Officer for FACE Foundation, and the Education Attaché for the Embassy of France to the United States. He is also a Senior Fellow and Principal Investigator at Fondation Maison des Sciences de l’Homme in Paris. His research project entitled ‘Global Philanthropy and Education in the Age of Knowledge Societies’ aims to highlight the role of global philanthropy in development assistance through the specific relationship of international foundations with private and public universities, research institutes, cultural centers, schools and continuing education in the world. Fabrice Jaumont holds a Ph.D. in Comparative and International Education from New York University. Nicknamed the “Godfather of Language immersion programs” by the New York Times, Fabrice Jaumont has more than 25 years of experience in international education and the development of multilingual programs. In spearheading what has been dubbed the “Bilingual Revolution” in New York, Jaumont has put his expertise at the service of the French, Italian, Japanese, German, and Russian communities by helping them to develop quality bilingual programs in their local public schools.Honors & AwardsIn recognition of his various involvements in education, Fabrice Jaumont was honored with several awards including the Cultural Diversity Award; the Academic Palms; and the Medal of Honor. His work received the accolades of various news media, including the front page of the New York Times in January 2014.

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    バイリンガル革命 - Fabrice Jaumont

    バイリンガル革命

    教育の未来は2 カ国語で

    ファブリス• ジョモン (Fabrice Jaumont)

    中野友子訳 (Tomoko Nakano)

    前書き: オフェリア• ガルシア (Ofelia Garcia)

    TBR Books

    ニューヨーク市ブルックリン

    Copyright © 2020 by Fabrice Jaumont

    All rights reserved. 本書の無断での複写等はいかなる形態においても著作権法上禁じられています。

    TBR Books は The Center for the Advancement of Languages, Education, and Communities のプログラムで、 教育• 言語• 文化史• 社会的イニシアチブに関連するトピックに関し、 多種多様なコミュニティとのつながりを模索する研究者および実践者の本を出版しています。

    TBR Books / CALEC

    750 Lexington Avenue, 9th Floor

    New York, NY 10022

    www.tbr-books.org | contact@tbr-books.org

    詳細は contact@tbr-books.org までお問い合わせください。

    本書にある見解は著者のものであり、 必ずしも著者が所属している組織の見解を表すものではありません。

    装丁画 © Raymond Verdaguer

    裏表紙写真 © Jonas Cuénin

    装丁 © Nathalie Charles

    バイリンガル革命(ファブリス• ジョモン著)第2 版

    ISBN 978-1-947626-88-1 (paperback)

    ISBN 978-1-947626-89-8 (hardback)

    ISBN 978-1-947626-90-4 (eBook)

    米国議会図書館はTBR Books ハードカバー版を以下のように目録に収めました。

    The Bilingual Revolution: The Future of Education is in Two Languages/ Fabrice Jaumont

    Includes bibliographical references and index

    Library of Congress Control Number 2017949229

    献辞

    「多言語主義は、 もはやデュアルランゲージの学校に通うことができる裕福な人や幸運な少数者だけに与えられるぜいたくではない。 子どもたちが将来、 仕事と人生で成功するのに必要な 21 世紀に欠かせないスキルだ。 『バイリンガル革命』は、 多種多様な言語プログラムモデルとベストプラクティスを共有することで、 さまざまな方法で競争の場を平らにならし、 また保護者や教育者が自ら 「革命」 を始めるために実行可能なロードマップを手にできるよう、 言語学習をわかりやすく説明している。 本書は、 子どもが世界とキャリアの準備がしっかりできるようにした親/保護者にとって必読の書だ。 」

    —Angela Jackson, Founder, Global Language Project

    「本書は、 米国の学校制度を駆けめぐる初期のバイリンガル革命の先頭に立ち、 それがどのように改善でき、 かつ奨励されるかを問う。 著者は、 米国における多言語教育熱の高まりを解説し、 この運動に参加したいコミュニティにロードマップを提供している。 」

    —Conor Williams, PhD

    Senior Researcher, New America's Education Policy Program Founder,

    DLL National Work Group

    「この魅力的な本は、 米国のバイリンガル教育の歴史と社会の流れを個人的かつ学問的な視点から追った物語だ。 中核部分は、 バイリンガルスクールを立ち上げ、 自ら革命を起こすための「ハウツー」 本。 保護者、 教師、 および言語を重要だと考えるすべての人に勧めたい。 」

    —Ellen Bialystok, OC, PhD, FRSC, Walter Gordon York Research Chair in Lifespan Cognitive Development,

    York University

    「著者は、 拡大するバイリンガル運動をめぐる個人的、 政治的、 そしてコミュニティの物語を、 バイリンガル教育の実践と科学を結びつけ非常に説得力のある本書で織りなしている。 この傑作は、 米国内外の保護者や教育指導者にとって欠かせないものになる。 」

    —William P. Rivers, Ph.D

    Executive Director, Joint National Committee for Languages, National

    Council for Language and International Studies

    「つながりあい、 小型化され、 壊れやすい時代に、 学校は若者が自立し、 積極的かつ生産的な市民とし て活躍するためのスキル、 能力、 感性を身につけられるよう奮闘している。 言語の教育および学習、 そしていわゆるバイリンガルであることの利点は、全米大小の学校で大きなカムバックをはたした。 そこかしこで保護者と教師がデュアルランゲージ教育• 学習のスイートスポットを探そうとしているようだ。 『バイリンガル革命』はそんなあなたたちの本だ。 学習と教育に関する深い洞察と、 実用的なアイデンティティとコスモポリタニズムの適用法、 例示的な証明ポイントが奇跡的にすべて含まれている。 21 世紀に最高のデュアルランゲージ教育プログラムを作り出し、 支援することに興味を抱いているすべての保護者、 教師、 学校関係者にとって必読の書といえる。 」

    —Marcelo M. Suárez-Orozco

    Wasserman Dean & Distinguished Professor of Education, UCLA

    Author, Global Migration, Diversity, and Civic Education:

    Improving Policy and Practice

    「私はグローバルな企業の会長として、 世界各地の管理責任者や顧客、 消費者とコミュニケーションを取り、 理解を深めるために、 いかに言語の習得が重要であるかを熟知している。 これらは複数の言語の知識があってこそ可能になることだ。 強い説得力をもつ本書は、 多言語教育が若者にどのような力を与えることができるかを、 米国でみえてきた非常に有望な流れを示しつつ教えてくれる。 教育の未来に興味がある人には必ず読んでほしい一冊だ。 」

    —Bruno Bich, Chairman & Chief Executive Officer, BIC Group

    ファブリス• ジョモンの著作

    バイリンガル革命 教育の未来は 2 カ国語で ファブリス• ジョモン. TBR Books.

    《双语革命:两种语言铸就教育的未来》Fabrice Jaumont 著 TBR Books.

    《对话双语》Fabrice Jaumont 著 TBR Books.

    Conversations on Bilingualism by Fabrice Jaumont. TBR Books.

    The Gift of Languages: Paradigm Shift in U.S. Foreign Language Education by Fabrice Jaumont and Kathleen Stein-Smith. TBR Books.

    Partenaires inégaux. Les fondations américaines et leur influence sur le développement des universités en Afrique. Paris : Éditions de la Maison des sciences de l’homme.

    Stanley Kubrick : The Odysseys. By Fabrice Jaumont. Books We Live by. New York.

    The Bilingual Revolution: The Future of Education is in Two Languages by Fabrice Jaumont. TBR Books.

    La Révolution bilingue : le futur de l’éducation s’écrit en deux langues. Fabrice Jaumont. TBR Books.

    La Rivoluzione bilingue: Il futuro dell'istruzione in due lingue. Fabrice Jaumont. TBR Books.

    El regalo de las lenguas : Un cambio de paradigma en la enseñanza de las lenguas extranjeras en Estados Unidos de Fabrice Jaumont y Kathleen Stein-Smith. TBR Books.

    Rewolucja Dwujęzyczna: Przyszłość edukacji jest w dwóch językach by Fabrice Jaumont. TBR Books.

    Die bilinguale Revolution : Zweisprachigkeit und die Zukunft der Bildung. by Fabrice Jaumont. TBR Books.

    Le don des langues : vers un changement de paradigme dans l’enseignement des langues étrangères aux États-Unis de Fabrice Jaumont et Kathleen Stein-Smith. TBR Books.

    БИЛИНГВАЛЬНАЯ РЕВОЛЮЦИЯ: БУДУЩЕЕ ОБРАЗОВАНИЯ НА ДВУХ ЯЗЫКАХ Фабрис Жомон Издательство «TBR Books», Бруклин, Нью-Йорк

    Unequal Partners: American Foundations and Higher Education Development in Africa. New York, NY: Palgrave-MacMillan.

    訳者への献辞

    私の母である中野友子は、 母親であるだけでなく、 愛情あふれる妻であり、 娘であり、 祖母であり、 数多くの方々にとっての友人でもありました。 そして、 母はどの役割の中でも、 教師としての一面がありました。 教室の外であれ、 母は常に周りの人が新しいことを学べるよう、 革新的な教え方を編み出そうとしていました。 母の教師としての一面を見た人は、 誰もが彼女はなるべくして教師になったと思うでしょう。

    母は生前、 バイリンガル教育は非常に重要で有益なものであると信じていました。 母は特に、 バイリンガル教育は子供たちの将来において、 キャリアだけでなく、 人生のあらゆる面で、 より多くの機会を与えてくれるきっかけとなるものと考えていました。 母にとって、 バイリンガル教育は、 子供たちを世界の多様な価値観に理解があり、 バランスのとれた大人に成長させてくれるものでした。

    母を知る人は皆、 彼女のたくましさを知っています。 5 年にわたる癌との闘いは、 彼女が唯一勝つことのできなかった闘いでした。 この本の翻訳は、 母が亡くなる前に成し遂げました。 この本の内容に心から共感していたのでなければ、 ここまでこの本の翻訳に熱意をもって取り組むことはできなかったはずです。 母はこの本を翻訳することで、 バイリンガル教育の重要性を世に広め、 自分の遺志が後世に受け継がれるよう形として遺したかったのだと思います。

    私は現在、 母親として、 ふたりの子をバイリンガルになるよう育てています。 子育てをする中で、 私は、 母が私をバイリンガルに育てる苦労を痛感し、 日々、 母に心から感謝しています。

    母が私をバイリンガルになるよう育ててくれていなかったら、 私は、 単なる旅行者以上の目線で世界に向き合うこともできなかったでしょうし、 多様な国から来た人と出会い、 話すことのできる学校に通う機会に恵まれることもありませんでした。 私は、 母にバイリンガルになるよう育ててもらったからこそ、 世界の多様な価値観に理解がある大人になることができました。 私は母のおかげで作ることのできたたくさんの思い出を胸に、 母に生涯感謝したいです。 そして、 私も、 母の孫である私の子供たちにも、 母が私にしてくれたように、 バイリンガルになるよう子育てをしていこうと思います。

    中野 綾子

    解説

    本の背景になっているニューヨークの

    公立学校制度について

    本書はデュアルランゲージ教育(バイリンガル教育)の単なるハウツー本ではありません。 多言語教育の視点から捉えた、 多民族社会の具体的な姿、 歴史の縮図、 そしてこれからそうなるであろう日本の未来へのメッセージです。

    中野先生は、 いつも希望にあふれた言葉と笑顔で、 アメリカに住む日本の子どもたちに日本語の楽しさ、 漢字の面白さを、 楽しそうにお話ししておられました。 日英バイリンガル養成のためだけではなく、 いかに子どもが自分のルーツに誇りを持ち、 それを楽しめるかのためにです。

    言葉にすると当たり前のことのように思えます。 しかしその本当の意味が心に落ちるのは、 小さな我子が日英バイリンガルになってほしいと、 書き取りや漢字ドリルに目を奪われた時期を過ぎ、 成長した子どもが自らアイデンティティを社会の繋がりの中で自覚する時かもしれません。 バイリンガル教育で言葉そのものを覚えることだけでなく、 そこで得られる広く楽しい世界を見つけてほしい、 という思いが中野先生の笑顔とエネルギーの源泉だったのだと思います。 そんな先生が本書を翻訳することで、 「デュアルランゲージ教育」 の意義と可能性を、 日本の人たちにも知らせたいと思われたのはとても自然なことだと思いました。

    本書は元々、 全米の公立学校で英語を学ぶ、 在留邦人を含む在留外国人や移民、 移民の子孫である保護者に向けられたものです。 しかし、 日本に住む日本人の保護者や教師、 また語学教育の研究者の方々にも、 十分に応用していただける内容です。

    ニューヨーク市公立学校でのデュアルランゲージ教育プログラム設立の記録であるため、 学校制度がわからないと読者に理解しづらいから、 少し解説を入れてほしいと中野先生から連絡をいただいた時は、 その言葉通りに理解しました。 しかし本書を読み、 想像以上に多民族社会のありかたと、 その中で次世代を育てることの意味に触発される本だと気づきました。

    研究者よる本書は万人に読みやすい本ではないかもしれません。 この分野の研究• 考察は昔から教育界の専門家の間ではなされていたはずです。 しかし、 私も含めた一般保護者にとって、 それは別の世界の「アカデミア」 の話のように感じてはいなかったでしょうか。 中野先生は、 本書にはその壁を越える力があると感じられたのだと思います。 自分たちでやらないと、 いや自分たちでやりたい。 そのような保護者の声が反映されやすい土台がニューヨーク市の公立学校にはあります。 その教育制度を簡単ですが補足させていただきます。

    ニューヨーク市公立学校のシステム

    ニューヨーク市公立学校の入学• 進学システムは全米でもっとも複雑と言われるほど特徴的です。 東京都より小さなニューヨーク市に 110 万人の様々な背景をもつ生徒たちが密集しています。 貧富の差や人種がはっきりわかれた地域もあれば、 道一つで挟んで生活環境の全く異なる人々が暮らす地域もあります。 これまで貧困層の多かった地域への富裕層の流入も進んでいます。

    基本的に、 小学校は日本の学区にあたるスクールゾーンの学校に通学する制度なので、 住む地域により学校の質や生徒の人種、 家庭環境がはっきりとわかれることは想像に難くありません。 ゾーンスクールの他に、 ゾーンの枠を外れて出願できるノン• ゾーンスクールと呼ばれる学校もあります。 日本の小学校入学にあたる 5 歳児のキンダーガーデン選びでは、 これらの学校の中から希望順に 12 校選んで市に出願します。 これは公立高校進学まで基本的に同じです。

    アメリカでは公立学校のデータはすべて公開されています。 在校生の人種構成や経済状態はもとより、 日本の全国統一学力テストにあたる州統一テストの結果も毎年各校ごとに公開されます。 テストの点数は 4 段階レベルにわけられ、 3 が水準学力、 4 が水準以上の学力となり、 各校ごとにレベル 3 と 4 を得た生徒のパーセンテージが発表されます。 これが各校の客観的な教育レベルとして保護者に認識されています。 A 校はレベル 3 と 4 の生徒のパーセンテージが 98 パーセント、 B 校は 26 パーセントという具合です。 そしてこの数字と有色人種の生徒の割合、 貧富の差は相関しています。 (アジア系生徒は例外で、 貧困家庭が多くを占めるもののテストの点数は高く、 そこがニューヨーク市の教育改革が一筋縄ではいかない要因のひとつにもなっています。 )

    教育熱心な保護者は成績優秀なスクールゾーンに住み、 家賃の価格は高騰、 ますます公立教育のセグレゲーション(分離)が進みます。 中学進学になると、 統一テストの点数を含む小学校の内申を持って、 小学校入学時と同様に、 進学希望校を 12 校選んで申し込みます。 成績のよい学校や学習環境が良質とされている、 いわゆる人気校に出願が集中。 高校進学ではその競争がますますエスカレートします。 日本の受験制度とは異なり、 基本的に入学試験で合否決定する制度ではないですが、 それだけにニューヨーク市の公立校進学プロセスは非常に競争が激しく複雑で、 保護者と生徒にストレスを与えることで有名です。 人種と経済力の差は広がるばかりです。

    この状態が公教育で許容され、 放置され、 よい教育を得るのが各家庭の「自己責任」 に帰するのをよしとしないのが現在のニューヨーク市教育局の姿勢であり、 在校生徒の多様性を促進するために色々な試みがなされています。 貧富の地域差を分けるスクールゾーンの境界線を引き直し、 様々な立場の生徒が同じ学校に通うようにする、 ゾーンを取り払って抽選方式で入学を決める、 一定の割合で貧困層の優先枠を各校に義務づけるなどはその一例です。

    人気がなくて生徒が定員に達しない学校に、 魅力的なプログラムを導入することで、 ミドルクラス以上の教育熱心な家庭の生徒を地域の学校へ惹きつけようとする動きも活発です。 ロボット工学や IT 教育に力をいれる STEIM プログラムや芸術系プログラム、 本書で紹介されているデュアルランゲージ教育プログラムもその役割を期待されています。

    保護者側も行動をおこしています。 子どもの成長は待ったなしです。 自分たちの望む教育、 子どもにとってよりよい学習環境は自分たちで作るという発想です。 プランが認められれば、 市からの助成金や篤志家の寄付も期待できます。 このような背景が本書で紹介されている、 各地、 各言語、 各文化のデュアルランゲージ教育プログラムの立上げを可能にしてきています。

    ギフテッド&タレンテットプログラムについて

    本の中にデュアルランゲージ教育プログラムとの比較で登場するギフテッド&タレンテット教育プログラム(G&T) の存在も説明しておきます。 アメリカの公教育では名称は違っても、 どの州でも見られるもので、 名前の通り能力のある子どもを選抜して教えるプログラムです。 英才教育と紹介されることもありますが、 これは少し誤解を招きやすい言葉です。 それよりは、 できる子、 できない子それぞれに最適な教育で力を伸ばすという能力別教育に近いものです。

    ここでは G&T 教育プログラムの内容については述べませんが、 ニューヨーク市で 1960 年代にこのプログラムが導入された理由は、 公立離れしていたミドルクラス以上の家庭に魅力的で満足のできる教育を提供することで、 公立学校へ戻ってきてもらうというものでした。

    常に低予算にあえぐ公立学校にとって、 寄付による資金集めは欠かせません。 結果的にミドル、 アッパーミドルクラスの教育熱心な家庭が、 特定プログラム頼みでこそあれ、 公立学校に戻ってくることの相乗効果で学校全体の士気や学力が上がり、 地域の人気校、 優良校になっていきました。

    本文で述べられているように、 デュアルランゲージ教育が子どもの学力上昇につながり、 成績がのび、 デュラルランゲージ教育プログラム導入の成功例が増えるにつれ、 G&T 教育プログラムの軌跡を追うプログラムとして、 注目されているという背景があります。

    言葉を学ぶだけが目的ではない教育

    ここで述べられているデュアルランゲージ教育プログラム立上げの物語は、 アメリカの色々な地域の在米日本人家庭を触発するかもしれません。 また、 2020 年から小学校で英語教育が必修となる日本でも、 日本語と英語のデュアルランゲージ教育プログラム発展の指針になるかもしれません。 保護者が主体となった多言語学習実現の記録である本書の背景にあるのは、 多民族社会における共生の歴史でもあります。 失敗も、 戦いも、 諦めも、 壁もあります。 これらの物語は、 多様化する社会で世界の隣人と共に生きてゆくための、 新しい視点をもたらしてくれるはずです。

    本書は、 学術的な論文、 保護者のデュアルランゲージ教育プログラム開設までの記録と実践法、 そしてデュアルランゲージ教育の意義という 3 部で構成されていますが、 興味のあるテーマ、 目をひいた目次など、 好きな箇所から読み始めてよいと思います。

    このニューヨーク市公立学校制度の紹介が、 読者の方々の助けになり、 本書を広めたいと願った中野先生のご意志が少しでも伝わる役にたてばと願います。

    河原その子(ニューヨーク市在住、 舞台演出家• 教育者、 ライター、 教育コンサルタント)

    目次

    はじめに

    謝辞

    保護者とコミュニティが手を取り合ってバイリンガル教育を勝ち取ろう

    行動を呼びかける

    保護者の強い意思があれば 実現できる!

    バイリンガル教育の景観を変える:ブルックリン区初の日本語バイリンガル教育プログラム

    コミュニティを集結: 3 度目の正直で勝ち取った イタリア語プログラム

    戦略的マインドセット:ドイツ語デュアルランゲージの取り組み

    ふたつの区の物語:ハーレムとブルックリン区のロシア語プログラム

    ドミノ効果: フランス語デュアルランゲージ教育プログラム続々誕生

    偏見をくつがえす:ニューヨーク市のアラビア語デュアルランゲージ教育プログラム

    文化を祝う:ポーランド語デュアルランゲージ教育プログラム

    道を切り開く: スペイン語デュアルランゲージ教育の先駆者たち

    プログラムの優等生:デュアルランゲージ&アジアンスタディーズ高校の場合

    デュアルランゲージ教育プログラムを作るためのロードマップ

    なぜデュアルランゲージ教育があなたの子どもにとってよいのか

    米国のバイリンガル教育: まず初めに知っておくこと

    教育の未来は2 カ国語で

    ロードマップ (簡略版)

    リソース/情報

    注釈

    参考文献

    索引

    TBR Books について

    CALEC について

    中野友子さんにささぐ

    はじめに

    この本の構想は、 私が 1990 年代後半から米国の公立学校における語学教育の発展支援に力を注いでいた時に生まれました。 私は在ボストン仏総領事館のエデュケーショナル• リエゾン(教育相談係)に赴任するため 1997 年にフランスから渡米、 任務期間中は米国全土の学校を数多く訪問する機会を得ました。 そうしたなか、 初めてイマージョン(没入型)教育プログラムというものに出合ったのが、 マサチューセッツ州のミルトンおよびホリストンという町です。 フランス語やフランス語を母語とする国々と必ずしも関係を持っているわけではないキンダーガーデン(訳注:幼稚園年長に相当)から高校までの児童生徒が、 フランス語でカリキュラムを学んでいたプログラムに、

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