LANDSCAPE DESIGN ランドスケープデザイン

01 雨庭というソリューション

( 公財 ) 京都市都市緑化協会理事長・京都大学名誉教授

はじめに :NBS にむけて

地球温暖化は生態系に多大な影響を与えはじめている 。 生活環境にとっても集中豪雨の頻 度の増加だけでなく 、 特に都市では暑熱環境の面でも「災害」として認識されてきたようだ 。 この 100 年間で、 世界平均気温は 0.8℃、 日本平均気温は 1.3℃ 上昇した 。そして東京の 気温は 2.9℃ 上昇 。 地球温暖化と都市ヒートアイランド現象の双方が課題だ。この暑熱環境に 伴う災害にどう対応するか。 地球環境危機だけでなく 、 人口減少や財政危機もたいへんだ。 東京五輪 2020 は、こうした条件を踏まえて 、 災害だけでなく 、 農林漁業の在り方も含めた 、 温暖化という課題に対する包括的な対応「自然を基盤とした解決策 (Nature-based Solutions:NBS) を広く議論し、 実証実験の機会ともすべき時だ 。 祭典への巨額の投資は、 こうした長期的視点を持つからこそ意義深いはずだ。にもかかわらず 、 聞こえてくるのはミス トだの冷風だの、 従来型の延長 、 いわば目先の個別利便性向上対応の精緻化に限られるよう だ。 誤解を恐れずにいえば 、そうした近視眼的利便性向上の偏重が、 長期的 、 本質的には地 球環境危機の背景にあるという認識を、 関係者で共有してほしい 。 本稿で紹介する 「雨庭」 の普及啓発が、 そうした本質的な対応推進に向けたアリの一穴となればと思う 。

1 暑熱環境から見た雨庭の意義

「緩和」 と 「適応」 のトレードオフ

私たちが感じる暑熱環境が過酷化しているメ カニズムは意外に複雑であって 、 人々の思い込 みも多い 。 気温と日射と暑熱環境 、 温暖化とヒー トアイランド 、それぞれ意味が異なるし 、 生態系 や生活環境に及ぼす影響も 、 昼間と夜間の暑 熱環境の意味合いも異なる 。

その対応についても、 エアコンをつければ室 内は涼しくなるが 、 一方で廃熱は都市を温め 、 エネルギー消費は温室効果ガスの排出増大に つながるという 、「トレードオフ」がある 。 全国各 地で観測史上最高の気温が記録された昨年 の夏には 、テレビは連日 、 熱中症対策を呼びか けた。エアコンの使用を頻繁に推奨する一方 で、 福島原発事故の直後は真剣に行われた省 エネの 呼 び か け は 、 どこへ 行 ってしまった の だろ う。 事態は改善するどころか 、 着実に悪化して いる 。 世界中が義務を負いつつ 、 温室効果ガ ス排出のネットゼロをめざすパリ協定に日本も署 名しているのだが

You’re reading a preview, subscribe to read more.

More from LANDSCAPE DESIGN ランドスケープデザイン

LANDSCAPE DESIGN ランドスケープデザイン1 min readArchitecture
「ヒストリカル・ライン構想」ー新潟市における緑の都市計画・システムとプログラムの構築ー
新潟市の中心市街地において、広義の公園緑地論または都市計画論に沿ったものとして幾つかの公園を線で結び、そのエリア内を、緑を主体に快適でわくわく感のある空間として創造する地域再生計画の構想であり「ヒストリカル・ライン構想」と名付けた。 この構想では、広義には都市の再計画が下敷きにあり、狭義には「文化への愛着・緑の再生・都市デザイン」をどう展開するかが大きなテーマで、今まで都市公園は長いこと配置や対象者の利用など機能面だけで語られてきたが、実はその本質は目的がなくても立ち寄れる「待ちのスペース」であ
LANDSCAPE DESIGN ランドスケープデザイン1 min read
Landscape Design
編集•発行人 丸茂喬 編集長 丸茂弘之 編集・デザイン 小林哲也 中村桂祐 アシスタントエデイター・褒謳デザイン 呉京樺 嘗彙•広告企ill 中村桂祐 デザイン 村上和(目次) ロゴタイプデザイン 春口浩一郎 「上1Jまるものがたり」事婁鄭 高田あや 印刷•製本 卸ディグ 取次店 トーハン、日販、楽天ブックスネットワーク ■
LANDSCAPE DESIGN ランドスケープデザイン1 min read
都市を壊す「神宮外苑再開発」―その欺瞞のしくみ
いま、神宮外苑都市再開発の不条理が次々とあばかれている。しかし、これは神宮外苑だけのことではない。東京都市再生のありふれた情景なのだ。 都市再生は80年代、中曽根内閣のアーバンルネッサンスから始まった。しかし、その都市破壊力が増したのは今世紀はじめ、小泉内閣のもとでスタートした「都市再生」以降である。当初は塩漬けされた不動産の稼働産化に重心がおかれていたが、しだいに「都市の国際競争力の強化」(都市再生特別措置法、2002年)が前面に出されるようになった。都市を競争力の源とみなし、都市、とりわけ内